熊本市圏のバス路線網再編と運行スキームの制度設計

Realignment Plan of Bus Network and Mechanism Design of Running Scheme in Kumamoto Metropolitan Area

平野 俊彦
Toshihiko HIRANO

Recently, the number of passenger of public bus services in Japan tends to decrease due to the motorization. This condition leads to a severe management situation, including in Kumamoto City. Since 1984, the deficit of bus companies operation in provision of bus services in Kumamoto has been covered by Kumamoto City Government on the basis of lines subsidy, and the city allocated a number of subsidy of about 200 million yen in 2007. Currently, The Kumamoto city government plans to reduce the amount of subsidy to bus companies by introducing the giving of incentive to bus companies in order to trim bus company deficit. This study aims to construct the mathematical model of the incentive reward and apply the model to realignment of buses lines networks in Kumamoto Metropolitan Area.

KeyWords:contract theory, cost-benefit analysis, demand forecasting, monetary incentive, project evaluation

 乗合バスは地域の日常生活を支える公共輸送サービスの役割を担ってきた.しかし,近年モータリゼーションの進展に伴う自家用自動車の普及, 少子化の進行による人口の減少等により,乗合バスの利用者数は全国的に減少傾向にある.熊本都市圏の路線バスの利用者数もこの20年間で半減し, ここ10年でも3割近く減少している(図-1.1).熊本市では,現行のバス路線は交通センターに一極集中しており,1本1本の路線も長く複雑なものとなっているため, 運行効率性は悪く利用者にとってもわかりづらい路線網となっている.また,民間バス事業者3社の他に熊本市営バス,平成21年4月から運行を開始した熊本都市バスを含め, 現在5事業者が都市圏内の路線バスを運行しており,事業者間競争の中での経営も大変厳しいものとなっている.一方で,若年者や高齢者などの交通弱者も少子高齢化に伴い増加することが見込まれ, 路線バスをはじめとする公共交通機関によるモビリティの確保が望まれている.
 このような中,熊本市は路線バスの利便性向上,採算性の向上,補助金の軽減のために平成20年度に「熊本市におけるバス交通のあり方検討協議会」を設置し, 熊本都市圏のバス路線網の再編と運行一元化スキームの検討を行っている.そこでは「公共交通の充実・利用促進に向けて,他の交通機関との連携機能を強化し, 利用者本位の一体的な公共交通体系を構築する」という考えの下,ゾーンバスシステムの導入によるバス運行の効率化を図っている.ゾーンバスシステムの導入により, 中心部でのバスの混雑解消や定時制の確保が期待される.この再編バス路線網については昨年度までに各事業者による話し合いの場がもたれ,素案は完成している(図-1.2参照).
 また,バス路線網再編の際には補助金交付方法の見直しも検討されている.現在,熊本市の補助金は,民間事業者,市交通局ともに赤字増に比例して増加傾向にあり, 補助金の合計は平成19年度時点で約2億円となっている(図-1.3).これに加えて,市交通局においては,一般会計補助金(市の一般会計からの繰出金)が単年度で10億円を超えている状況である. 現在の補助金交付方法は赤字路線の赤字額を補填する形をとっているが,この交付方法では,バス事業者が赤字削減をするという経営努力を怠っても補助金で経営が成り立つことになり, 赤字額を減らそうというインセンティブが働きにくい.行政はバス事業者に赤字を削減させるインセンティブを与えて赤字補填額を減らしたいと考えている.このインセンティブをうまく与えることで, 企業努力を促し,補助金額を削減するという社会的に望ましい状況を作り出すことができる.
 本研究では,まずこの再編バス路線網の需要予測から費用対効果を測り,再編後に社会に与える影響を事前に予測する.そして,インセンティブ報酬を取り入れた補助金交付方法の提案とその評価を行い, 費用便益分析だけでなく運行スキームや制度設計も含めた再編バス路線網の総合的な評価をすることを目的とする.