2010年3月
title/出会うこと。別れること。
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引越しのトラックに荷物を載せガランとした部屋。
残ったのは、実家に持って帰るベッドと冷蔵庫に、自分だけ。
音がない。ときどき冷蔵庫のウーンという音と、窓の外を通る車やバイク、人の話し声が近づいてきては離れていく。
時間が経つのが長い。テレビやインターネット、本がないと時間は意外とあるのかもしれない。
一瞬、孤独や不安のようなものを感じる。
ふと、地元の旧友と連絡を取りたくなった。懐かしい声がした。
実家に帰り、1年ぶりに家族の顔を見た。祖母が老いていた。腰の曲がったおばあちゃんになっていた。犬も老けていた。白内障らしい。
そして、熊本にいたため葬儀には出られなかった友の死を思い出した。
目を背けられない現実があった。
テレビやインターネット、携帯電話は便利である。おかげで、孤独を紛らわせ、現実の世界から目を背け、一人でも生きていくことが出来るのかもしれない。幸せなのかはわからないが。
今の世の中はいろいろなものがなくても生きていける。隣の人の名前を知らなくても、川で遊ばなくても生きていける。ゲームなら怪我もしないし、負けたらリセットできる。
自分が子どものころは、親の目を盗んで危ないところに遊びに行ったり、けんかをしたり。ひざとひじはいつも傷だらけだった。
自分は頑固でアナログな人間である。ゲームより、外で遊ぶほうが好きだった。
怪我はするし、親には怒られるが、いろんなものとの出会いや発見がある。
リセットできないものや、自分ではどうにもならないもの。なんかそっちのほうが好きである。
いろんなことに向き合うと、いろんなものと出会い、いろんなことを感じることができる。
現実の世界はきれいなことだけではないが、なんか美しいと思う。
出会いも別れも。心から感じることができるから。
自分は不器用だから、とりあえず向き合ってみようと思う。いろいろなことに。
欲を言えば、いつか、人とまちと自然といろんなものが向き合うことのできるデザインをしたい。
そこで、出会い、別れ、いろいろなことを感じられる場所を作りたい。
再会できる場所もよいかも。
photo&text/Yuki TAKAGI